KYOTO WALKのはじまり

「ここまで車は来れないのかねぇ」

京都府立植物園のくすのき並木を前にして祖母がつぶやいた言葉です。

2018年3月、当時88歳だった祖母が横浜から京都へひとりで旅行に来ました。

90歳近い高齢者をひとりで新幹線に乗せるのはかなり心配でしたが

しばらく旅行へ連れて行ってあげられなかったこともあり

大チャレンジの京都旅行が決行されました。

祖母自身も、高齢の自分が旅行へ行くと迷惑をかけるからと

遠慮して気持ちを言い出せなかったようです。

ですが、旅行の予定が決まると

「孫が京都で待ってるの」

と、嬉しそうに駅員さんに話しながらチケットを買っていたそうです。


京都に着いてからは、まず東寺へ行きました。

真言宗のお寺へ嫁いだ祖母の長女(僕の叔母)に、一度は行くべきと勧められたそうです。

そのあとは、花が好きな祖母が喜ぶだろうと思い渉成園へ行きました。

相棒の杖で花を指しては、得意げにその名前や特徴を教えてくれました。

次には、『源氏物語』発祥の地として知られる廬山寺へ行きました。

短歌が趣味の祖母の本棚には、瀬戸内寂聴訳の『源氏物語』が並んでいます。

祖母は、趣のある枯山水庭園よりも、立派な木に這った苔を気に入っていました。


最後に向かったのが京都府立植物園です。

3月上旬だったため、ソメイヨシノや八重桜は見れませんでしたが

山桜や「令和」の語源となった『万葉集」の一節のごとき「落梅」が楽しめました。

そして冒頭のくすのき並木のシーンです。

植物園へ行ったことがある人ならわかると思いますが、並木を抜ければすぐに園の出口です。

けれども、祖母からすればその距離が絶望的に遠く感じられたわけです。

移動手段はすべて車にし、なるべく歩く距離が少なくなるよう配慮したつもりでしたが

88歳の身体には、一日中外にいること自体が大変な負担だったようです。

当然といえば当然で反省しています。

とはいえ、夜は京懐石を楽しみ、祖母の京都旅は無事に終わりました。

あれから2年経った今、認知症を進めた祖母は僕が誰なのか思い出せなくなりました。

話をする時も、僕を忘れてしまったことを悟られまいと、相変わらず気を遣ってうんうんと話を合わせて頷きます。

こちらも、孫であることと自分の名前を先に伝えるようにしています。

けれども、そのとき撮った写真を見ると、あの花がどうだったとか廬山寺がどうだったとか、その時の様子を鮮明に話しだします。

一緒に写真に写る人が誰なのか、いつ京都に行ったのかが分からなくても

その話をしている祖母の顔はとても嬉しそうで、幸せそうでした。

そんな意味でも、写真を撮っておいてよかったなぁと思います。

多少足が悪くても、気を遣わず旅行を楽しんでほしい。

少しくらいの不便があっても、ゆっくり行ける範囲で、思い思いの京都を楽しんでもらいたい。

もちろん、年配のかた以外のお供や、撮影もできればと。

KYOTO WALKはこのような想いから生まれました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。